日本国債売りはキャリーのヘッジ
最近、日本の国債が暴落していることが知られている。
金利は国債価格に反比例する。したがって金利が上髭を長くつけた日は、国債が売られている。これはヘッジファンドが空売りをかけていることが原因であるといわれている。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-06-28/RE5U7YT1UM0W01
しかし、日本の関係者は首をかしげている。黒田総裁が在任中に金融政策を転換する可能性はほとんど0に近い。選挙までは岸田総理からの圧力も掛かりづらいだろうし、今回の選挙で清和会の勢力が強まるようなことがあれば、今後もリフレ派が付く可能性が高い。リフレ派にならなかったとしても、急速にYCC放棄に向かうかは微妙なところだ。コアコアcpiはいまだ年率0.9%で、しかもcpiの上昇原因は主に戦争と輸入物価の高騰であって、賃金上昇に結びつくとは考えにくい。
そしてそもそも日銀は円の発行主体であり、その資金は文字通り無限大だ。国債の買い付けは日銀当座預金の借方に国債、貸方に預金を積み上げるだけの操作で終わる。ヘッジに支障が出ているとの報道もあるが、日銀が買った国債を貸せばいいだけの話だ。
それでも世界が利上げに向かうなか、日本だけが量的緩和を続けるのは不自然ではある。しかしこのような単純な、所詮アナリストや私が思いつく程度のことを、世界のbest and brightestであるヘッジファンドが考えないとは思えない。だとすれば、彼らはそれ以外の要因で円を売っている。それはなぜだろうか。
ここまで考えて思いついたのは円キャリーだ。円キャリーとは調達コストの安い円で資金を調達して、高パフォーマンスな米国株に投資するタイプの取引だ。コロナ期にしばらく消滅していたが、また復活してきた。このような資金移動は、ドル円相場を通じて観測できる。
FFレートが低下すると日本でわざわざ資金調達をする必要がなくなり、経常収支が黒字転換・円相場は上昇する。逆もしかりである。実際現在は円相場が急激に上昇し社会問題化しており、そもそもこれがYCCを放棄する観測がでる根拠だ。
では、彼らは日本での金利が上昇したどうなるだろうか?
急激にドル円相場は巻き戻り、金利は上昇してキャリー投資家たちは損失を出す可能性がある。
日本のcpiは確かに低い。一方でppiは世界と同じく10近い。Mr黒田の立場は決して安泰ではない。11月には巻き戻す可能性が高い。
結論として、彼らはヘッジが必要なのだ?なんの?円キャリーへのだ。彼らは日本の金利変動リスクをとっているのではない。金利変動しないというリスクテイクにヘッジしているのだ。
では今彼らは何を買っているのだろう。おそらく高金利になった米国債を買っている。
もう随分前から起きている現象だが、米国のYCは10年だけ下にコブを作っている。日本の10年をうって、米国の10年を買う。タームとしてはあっている。さらに動機も、ある。米国の景気後退リスクへかけているのだ。
米国の2022年度!Qはgdpが-となった。二期続けば定義上、景気後退となるし、事実インフレファイターとしてのFRBの近日の姿勢を見るとそのようになる公算は高いように思える。また米国のgdpは貿易赤字と相関傾向にある。
これはgdpの式を考えれば当たり前だ。
Y=C+I+G+EX
このexが貿易収支である。貿易収支はドルインデックスが向上すれば悪化する。来季も米国のgpdはマイナス成長となる公算は高い。そうなれば資金はさらなる逃避をし、米国債に流入するだろう。米国長期金利は低下し、国際価格は上昇する。ここで売却すればいい。同時に日本国債へのショートポジションを解消する。
以上のように、別にヘッジファンドは日本の政策転換にかけているわけではない。そんなばくち打ちのような真似を投機筋は、よほどの確信がなければしない。そうではなくて、彼らは日銀の巨大な力の逆流を恐れているのだ。